お気に入りの場所、というのが一箇所だけありました。
どこに行ったって何にも感じなかった頃に、唯一気に入っていた場所でした。
鈍行列車の果てに辿り着く、非日常が溢れる景色。人間の快楽をとことん追求した、娯楽が飽和した空間。
素晴らしい場所はどこにでもあって、しかし、そのどれもがお気に入りにはなりませんでした。
真夜中の国道。
その上にまたがる歩道橋こそ、僕のただひとつのお気に入りの場所でした。
そんなところは誰にとっても無価値であることは明らかで、であるからこそ、僕だけが価値を見出すことができたのです。
独占こそ、お気に入りの場所の条件なのです。
そして、僕の居場所は真夜中にのみ成立するのでした。
明るいと、色々なものが見えます。
国道が伸びていくその先も、空と街の境界線も、空の果ても。
あの高さからはよく見えて、僕と世界との境界が溶け合ってしまうのです。
暗い空の下で、じわりと現れるランプが残していく軌跡。
僕には気付くこともなく通り過ぎていくそれらを、ただ眺めるだけの場所。
閉鎖的でありながらも、世界との干渉の瞬間を垣間見ることができる箱庭。
僕のお気に入りの場所。
国道16号、歩道橋。
息を吹き込む